シリア・デデリエ洞窟より発掘されたネアンデルタール幼児人骨の骨盤形態についてその3次元的構造を評価する目的で研究をおこなった。 ネアンデルタール骨盤で特徴的な形態は恥骨が内外側に長いということである。計測値による分析によって、デデリエネアンデルタールについてこの恥骨の長さの評価をおこない、現代日本人の骨盤計測値データから恥骨長さと関連する骨盤形態を多変量解析を用いて分析した。 ・分析に用いたネアンデルタール幼児資料はデデリエとLa Ferrassie 6で、比較資料はTompkins and Trinkaus (1987)で用いられている現代人集団である。現代人集団の回帰に対する残差の分析によって、2つのネアンデルタール幼児は同じ傾向を示した。すなわち、恥骨の長さは成人ネアンデルタールに見られるのと同様に有意に長いが、恥骨上枝の上下の扁平性は見られなかった。 ・現代日本人成人の骨盤計測データ(男性30、女性20)より恥骨の長さと関連の深い形態を主成分分析+バリマックス回転によって抽出した。恥骨長さは小骨盤の矢状径とやや関連するものの、横径とは関連がないこと、また、女性では寛骨臼の幅と関連するのに対し、男性ではほとんど無相関であった。 3次元データの解析として、連続CT写真からの3次元構築と、非接触型の3次元計測装置によるデータ入力を試みた。1個体のデータ表示には威力を発揮するものの比較を必用とする分析には幾つか問題が見られた。一番大きな問題は比較のための座標の決定と相同部位の決定が困難である点である。分析機器付属のソフトウェアがまだ対応できない状態であった。このため相同形態の座標位置が得られる接触型の3次元計測装置を購入し、3次元座標データとして分析する方向を検討している。
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