1989年から1991年にペル-北部において東京大学の調査団によって発掘調査がなされたアンデス文明形成期のクントール・ワシ、ワカロマ、コルギチンの3遺跡から出土した44体の人骨について、研究補助員1名の助力を得て洗浄、整理、復元の作業をおこなった。その作業の後、形態学的所見を記載し、年齢・性別などの鑑定をおこなうとともに、人骨の形態的特徴ならびに計測データにもとづき、他の近世アメリカ先住民と比較した。コンピュータを用いて種々の統計学的分析をおこなった結果、アンデス文明形成期の人類集団の形態は、時代的に隔たっているものの、全体的には他のアメリカ先住民と共通していることが明らかになった。 一方、個体別にみると、比較的大きな形態の変異がみいだされた。出土した遺跡は神殿が栄えていた地域であり、神官貴族と平民といった社会的階級が存在していたことが知られている。このような社会的身分の違いが、人骨の形態の大きく影響しているとみられる形態の相違である。すなわち、金製品をはじめとする豊富な副葬品をともなった人骨は華奢であり、明らかに貴族的形質といえる特徴がみいだされた。この傾向は日本の江戸時代における庶民と武士階級の形質の違いに極めて酷似しており興味深い。 また人工的な頭蓋変形の痕跡も検出され、アンデス地域に広くおこなわれていた頭蓋変形の風習が形成期にまで遡ることが明らかになった。
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