これまで、放射光で楕円偏光X線を生成する方法として、楕円マルチポールウィグラーなどの偏光可変挿入型光源やオフ・アクシス光を用いる方法などが利用されてきた。しかし近年、シリコンなどの完全に近い単結晶の平板がX線移相子として機能することが示され、これにより水平偏光の放射光を円偏光に変換することが可能になった。 従来はX線移相子の母材としてシリコンの単結晶が利用されてきたが、透過X線を利用する透過型の移相子では、吸収の少ない物質を用いることにより偏光の変換効率を飛躍的に向上できることが予想された。このことを検証するために、まず移相子の偏光変換効率と移相量を計算するプログラムを作成した。このプログラムで様々な結晶についてシミュレーションをおこなった結果、予想通り、ダイヤモンドやベリリウムなどの軽元素の単結晶が最高の性能を発揮することが示された。現状では、良質のベリリウム単結晶を入手するのが困難であるのに対して、ダイヤモンド単結晶は商業ベースで入手可能である。そこで、ダイヤモンド単結晶(住友電工製、タイプIIa)を移相子として利用した場合の性能評価実験をおこなった。実験は高エネルギー物理学研究所・放射光実験施設のBL-15Cでおこなった。偏光電磁石からの放射光を二結晶分光器で単色化(波長0.1026nm)した後、ダイヤモンド移相子により偏光を変換した。その結果、70%の効率で右回り円偏光、左回り円偏光、垂直偏光を生成することができた。 本研究により、ダイヤモンド単結晶のX線透過型移相子を用いて水平偏光の放射光を円偏光や垂直偏光に高効率で変換できることが明らかにされた。今後、本研究で得られた円偏光X線を使って、磁気円二色性やX線磁気回折などの多彩な応用実験を展開することが可能になる。
|