本研究では都市の景観などの色彩環境に対して人間が感じる視覚的な複雑さを、色彩環境の物理量の統計的特徴から定量的に評価する方法に関して研究した。まず、都市景観などのカラースライド写真を多数撮影し、その中から評価対象とするスライド写真を選択した。今回は色彩環境の評価基準には「にぎやかさ」という表現を用いた。実際には、被験者は提示されたスライド写真の光景の色彩環境に着目し、そのにぎやかさを0〜10点を目安に得点づける。練習として15枚のスライド写真に対する評価を行った後に、本実験として50枚のスライド写真に対する評価実験を行った。実験に参加した被験者は10名である。評価実験の結果、50枚のスライド写真の色彩環境のにぎやかさの評価値は、被験者平均で最小が1.62から最高で8.63となり、様々なにぎやかさの程度が含まれていることが分かった。また、被験者間の評価値には高い相関があり、ほとんどの被験者の組み合わせについて相関係数は0.8以上となった。つまり、色彩環境のにぎやかさ感の判断には、各被験者に共通した要因があったものと考えられる。その要因を色彩環境の物理量から抽出するために、スライド写真をフィルムスキャナーによってコンピュータに取り込み、画像を80列×64列のセルに分割し、各セルの代表色を算出した。まず、分析対象としたのは画像の色の明度、彩度、色相などの基本統計量とにぎやかさ感の相関である。その結果、彩度の上位の値との正の相関が見られた.また、色の画像中における位置の散らばり具合を示す量を算出し相関を見たところ、にぎやかさ感とかなり高い相関が見られた.画像から得られる彩度の上位値と色の散らばり度の2変数を用いると、人間のにぎやかさ感評価値と0.75以上の相関を持つ評価モデルが得られた。
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