本研究は、非圧縮非粘性流体の問題をハミルトン形式により記述し、シンプレクティク時間積分手法を適用することにより、エネルギーと運動量が高い精度で保存される高精度な有限要素解析法の開発を行うものである。 本年度は、以下のように研究を行った。 1.非粘性非圧縮流体の自由表面問題を、Lagrange型変形記述によって表すことにより、ハミルトン形式による定式化を行った。また、空間方向に弱表現を導入し、非圧縮条件をLagrange未定乗数法により考慮したハミルトン関数の弱表現を導いた。さらに、自由表面問題における表面張力は、Saimoらの提案するシェル理論により、ポテンシャルエネルギの形で考慮することができることを示した。 2.導かれた拘束条件付きのハミルトニアン方程式の弱表現に対して、シンプレクティック時間積分を適用し、拘束条件付き境界値問題を導いた。本研究では、シンプレクティック時間積分スキームとして、2次精度を有する2段階型の数値積分法であるRattleアルゴリズムを用いた。その結果、形状と速度に対する両方の拘束条件を満たす解を、ハミルトニヤン系のシンプレクティック構造の保存の下で求めることができる手法が得られた。また、時間方向の離散化を行うことにより得られた付帯条件付きの境界値問題の弱表現に対して、気泡関数を用いたMINI要素により、inf-sup条件を満たした混合型有限要素近似を行った。 3.以上より得られた有限要素スキームを用いて、液滴の振動問題の数値計算を行い、提案するスキームは、運動量、エネルギーとも高い精度で保存するものとなっていることを確認した。しかしながら、MINI要素では、非圧縮条件に起因する誤差が要素内部節点で大きく傾向があり、Lagrange型変形記述を用いた場合、その誤差が蓄積し、計算が停止してしまうことがることが分かった。このようなMINI要素における要素歪みの問題に対して、要素内部節点の位置を、数ステップ毎に要素重心位置に各要素の運動量の保存の下で再配置する手法を提案し、誤差の蓄積を防ぐことで、より大きな変形状態まで計算が可能となることを示した。
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