自由表面等の複雑な境界条件を伴う偏微分方程式を差分法を使って離散化した場合に現れる一部分不規則な帯行列の反復法による解法についての研究を行った。このような行列の解法としては、行列を規則的帯部分と不規則部分に分け、それぞれの行列を交互に解くことにより元々の行列の解に収束させる部分構造反復法がよく使われる。しかし、この方法では、収束するための必要十分条件を満たさず計算不可能なケースも多々ある。そこで、部分構造反復法に2種類のパラメータを導入した新たな反復法を提案し、その収束特性を理論的に調べた。その結果、パラメータを導入した部分構造反復法の方が収束するための必要十分条件がかなり緩くなり、実際の計算例においてはパラメータを調節することにより、部分構造反復法で収束しない場合でもほとんどのケースで収束させることができること、また部分構造反復法で収束する場合でもパラメータを導入することによりさらに収束を速くすることが可能となる、ということを示した。 この方法により複雑な境界条件の場合にも、簡単な境界条件、例えばDirichlet条件の場合の反復法の性質を利用することができるようになり、高速な数値計算を行うことができるようになった。具体的には、パラメータを導入した部分構造反復法において、簡単な境界条件の場合に得られる規則的帯行列部分を解くときに理論的に得られたSOR法の最適加速係数や効果的な前処理法を施したCG法を使い、それと実際の複雑な境界条件から得られる不規則部分の行列を適切なパラメータの値を使って交互に解くことにより行列の数値計算を行うことができる。特に自由表面流の計算に現れるNavier-Stokes方程式、ポアソン方程式に適用でき、より安定かつ高速な数値計算ができるようになった。
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