高分子材料の微細加工技術として注目されるエキシマレーザー加工における、加工対象の重要な材料特性である結晶化度の及ぼす影響について検討を行った。各種材料のレーザー加工の本質は加工対象によるレーザー光吸収とそれに続く対象の状態変化であるため、微細な加工を行うためにはこのプロセスを微小な領域で完結させ、周囲に影響を及ぼさぬようにする必要がある。エキシマレーザーは高出力の短パルスレーザーであるため、材料に吸収されたエネルギーの加工領域周囲への拡散に比して速く加工現象が完結するのみならず、紫外光を発振するため高分子材料の原子間結合を直接切断することが可能と考えられる。したがって、その加工特性は材料の物性に強く依存することは明白であり、高分子材料の主要な物性値である結晶化度の影響についても検討する必要がある。 本研究ではエキシマレーザー(現有)の波長248nmのKrFレーザーを用い、高密度ポリエチレン(HDPE)と低密度ポリエチレン(LDPE)の加工特性の違いについて検討した。結晶化度はそれぞれ90%、70%程度であり結晶化度が高いほど密度も高くなる。 実験の結果、同じ加工深さ(パルス1回あたり)に必要なレーザーフル-エンスはLDPEのほうが大きくなり、たとえば1μmの加工深さを得るためにはHDPEでは2.3J/cm^2のフル-エンスで済むのに対し、LDPEでは3.2J/cm^2と約40%大きなエネルギーを要することが明らかになった。また加工開始のスレッショルドフル-エンスにも1J/cm^2程度の差が見られた。ところが従来知られている関係式によれば、加工深さは光の吸収係数の減少とともに増大することが知られており、LDPEのほうが吸収係数が小さいことからこの関係に反する結果となっている。また従来の関係式では、加工深さはフル-エンスの対数に対して線形に増加するが、本研究ではこの関係も認められず、今後材料の分子構造に立ち入った詳細な理論的検討が必要と考えられる。
|