本研究では、ナイメータオーダのライン&スペースのレジストパターンを機械的に直接加工するナノリソグラフィーの実現を目標とし、提案する“知的ナノ加工システム"の開発を行った。本システムは、走査プローブ顕微鏡を応用した微細加工機であり、p型半導体ダイヤモンド製の加工探針によって、ナノメータレベルの機械加工を行うものである。加えて、ダイヤモンド加工探針がSTM・AFMとしての計測用探針としても共用が可能であることから、加工前の表面性状の評価、加工場所の原子レベルでの位置決め、加工後の形状評価をin situで行える特徴も有する。このようなナノメータ精度の加工・計測一体型の全く新しい加工システムである“知的ナノ加工システム"を確立するための基礎研究として、(1)ナノメータオーダの精度を有する3次元駆動機構の設計・試作を行い、(2)相合成法によって本システムに不可欠なダイヤモンド加工探針を作製し、(3)開発した加工探針をSTMの計測用探針として共用するための性能評価を行った。得られた結果をまとめると次のとおりである。 1.圧電素子を用いた3次元駆動システムを開発した。本システムは、2個のチューブ型の圧電素子(PZT:3軸駆動が可能)を対向配置し、一方のPZTに試料を設置し、もう一方のPZTには加工探針を設置する構造とした。前者には、加工探針と試料を加工位置まで位置決めするZ軸粗動ユニットおよび加工探針をXY平面内で走査するXY軸走査ユニットとしての機能を、後者には、加工探針-試料間距離を一定に制御するZ軸微動サーボユニットとしての機能をもたせた。Z軸粗動ユニットの分解能は0.2nmであり、XY軸走査ユニットは電荷制御による線形化によって2.6μm×2.6μmの駆動範囲を50nm以下の直線性で走査可能とした。また、Z軸微動サーボユニットは試料-加工探針間の距離を分解能6nmで制御可能とした。さらに、加工探針の装着部にタングステン製の探針を取り付けSTM観察を行い、本駆動システムの性能を総合的に評価した結果、20nm程度の分解能を有することがわかった。 2.気相合成法によってp型半導体ダイヤモンド製の加工探針を作製した。具体的には、異方性エッチングによって作製したSi基板の“モ-ルド"上に、ホウ素を溶解したアセトンと水素の混合ガスを用い熱フィラメントCVD法によってダイヤモンド薄膜を形成し、高さ約50μmのピラミッド状の加工探針を作製した。開発した上記の駆動システムにダイヤモンド製の加工探針を装着しSTM計測を行った結果、トンネル電流の計測を確認した。 以上の結果から、半導体ダイヤモンド加工探針の計測用探針としての可能性を明らかにし、提案した“知的ナノ加工システム"実現の可能性を見いだした。
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