本研究の目標は、THz帯周波数領域でのキャリア散乱ノイズをLOフォノン散乱を利用して抑制することにある。今年度は、予備的実験としてGaAsショットキーダイオードのノイズの周波数特性を測定し、またZnSe上の絶縁膜堆積を試みた。ノイズは、ヘテロダイン検波後にスペクトルアナライザーで測定した。絶縁膜堆積はGaAsで既に成功している常圧CVD法によった。以上の実験で明らかになったことは、ノイズがショットキー(金属・半導体)界面近傍の欠陥や不純物に大きく依存し、界面欠陥の低減が大きな課題だということである。界面近傍に欠陥が混入すると、数KHzからMHz以上の熱雑音が増大する為、ヘテロダイン受信周波数領域(MHz以上)で受信感度が低下する。従来、GaAs・金属界面近傍の欠陥低減が困難であったが、現状では再現性良く低損傷界面を得ることに成功し、良好なデバイスを作製する手段が確立されつつある。ZnSe上の絶縁膜堆積はGaAsとは異なる問題が明らかになり、ショットキーダイオードを製作するまでには至らなかった。ZnSe上の絶縁膜は膜厚が不均一であり、またフォトルミネッセンス測定から、ZnSeの品質が劣化したことも確認した。この理由は、常圧CVD法の温度(設定350℃)がZnSeの成長時の基板温度(約250℃)より高いためにZnSeの結晶性が劣化したと考えられる。現在、常圧CVD法の温度設定や、他の絶縁膜堆積法の検討を行っている。 本研究はII-VI族半導体のLOフォノンカップリングの大きいことを利用し、GaAsでは起こりにくい、キャリアのLOフォノン散乱によるTHz帯のノイズ特性制御をめざしたが、新たな問題に直面しており、II-VI族半導体の特徴を生かせないのが現状である。金属・半導体界面制御の問題は、GaAsに比べII-VI族半導体ではさらに未解明な点が多く、今後の研究課題となる。
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