現存のインターネットを司るプロトコルであるTCP/IPのトラヒック転送単位はパケットと呼ばれ、その下位層に位置するATM(非同期転送モード)層では、53バイトの短い固定長のセルに分割、転送される。セル分割によってATM網でのスループット特性が劣化する事がシミュレーションにより確かめられている。 本研究では、まず、待ち行列理論を用いて、ATM網におけるスループット特性を解析的に導出した。従来の研究では、ATMスイッチで廃棄されたセルを再送する場合のスループット解析はなされていたが、パケットを再送の単位とした場合の解析はされていなかった。これは、解析で扱う状態数の多さに起因したものであったが、本研究では、送信ソースにおいて飽和状態を仮定する事により、解析困難さを克服し、簡易に計算できる方式を提案している。本解析による数値結果より、パケット長に対してATMスイッチのバッファサイズが比較的小さいと、極端に性能劣化を引き起こす事が明らかにされた。これは、パケット中の一つのセルでも廃棄されると、受信側では、そのパケットを認識する事ができず、結局該当パケットの再送を送信ソースに要求する為である。 その欠点を克服する為に、あるパケットでセルが廃棄されたら、それ以降の同一パケットに属するセルを強制的に廃棄する選択セル廃棄方式が提案されている。次に、選択セル廃棄方式を適用した場合のスループット解析を上記の解析手法を拡張して行い、性能改善度合を明らかにした。先に示した方式は特にTail Dropping(TD)と呼ばれるが、さらに、バッファの格納セル数に応じて、パケットの先頭から強制廃棄するEarly Packet Discard(EPD)がある。ここでは、前者に絞って解析を行った。数値結果より、バッファサイズが小さくても、TDを適用する事により、劇的にスループットを改善できることが明らかになった。今後はEPDの場合も解析する予定である。
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