本研究では、パイプライン実現による、適応信号処理の高速化を検討している。適応信号処理は、未知系への自律的な同定を可能とするという特徴を有しており、種々の信号処理への応用が期待されている。近年の、高品質な通信への要求より高速に適応信号処理を行なうことが望まれている。適応信号処理の高速化を実現するための1手法として、パイプライン技術を応用した実現が検討されている。 適応信号処理は、適応アルゴリズムと呼ばれるアルゴリズムに基づき実現される。現在までに、幾つかの適応アルゴリズムが提案されている。それらのうち、平均最小2乗(LMS)アルゴリズムは、実現の際に必要となるハードウェア規模が他のアルゴリズムに比べて少なくなると考えられており、パイプライン実現が期待されている。本研究では、LMSアルゴリズムのパイプライン実現による高速化の検討を行なっている。 従来のLMSアルゴリズムのパイプライン実現の手法では、適応特性を犠牲にしており、この事が実際の信号処理への応用を困難なものにしていた。この問題に対し本研究では、LMSアルゴリズムを修正することを提案する。提案する修正アルゴリズムは、パイプライン化の1手法として知られるルックアヘッド変換の、新しい形式を導出し利用することで定式化される。提案アルゴリズムに基づきパイプライン実現をすることで、高速な処理を実現とすると同時に良好な適応特性の維持を可能とする事が示される。また、必要となるハードウェア量を減少させるための構成法に対する検討も行なった。その結果、提案法の効果を維持しつつハードウェア量を約半分に減少可能であることを示した。
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