本研究は光ソリトン通信システムの符号誤り率特性を厳密な理論解析によって明確にすることを目的としている。本年度において得られた新しい結果は以下のとおりである。 1.光ソリトン通信システムにおいて光増幅器が中継器として用いられると、光波のコヒーレント増幅に起因した自然放出雑音光(増幅器雑音)か信号パルス(ソリトンパルス)に重畳して受信器に到達し、伝送特性を劣化する。本研究では、複数個の光増幅器を用いた多中継システムについて、その増幅器雑音が符号誤り率に与える影響を理論的に明らかにした。本解析は光振幅の直交展開を基礎として導出された光電子数の確率密度関数を基礎としているため、従来の研究では考慮されていなかったパルス形状の影響などを正確に算入することができ、厳密な符号誤り率が得られる特徴を有する。その結果、中継器間隔と全伝送距離の関係など、実際のシステムを構築する際に必要不可欠な特性が正しく算定された。 2.これらの結果は従来から一般に用いられている近似解と比較され、近似解には大きな誤差が含まれることが示された。このことからも本研究の有意性が明らかとなった。 3.上記(1)において、中継器間隔をゼロ、すなわち伝送路が能動線路(または分布増幅器)であるときの解が光ソリトン通信システムの伝送限界を与える。本研究では、この伝送限界を上記(1)と同様の手法で求め、そのパルス幅依存性や伝送速度との関係などを明確にした。 4.増幅器雑音がソリトンパルスに重畳した場合、パルス到着時刻が揺らぐ現象(一般にGordon-Haus効果と称されている)が発生する。この現象が符号誤り率に与える影響を理論的に解析した。しかし、この解析結果は幾つかの条件の仮定下で求められており、一層の厳密性が今後の課題として残されている。
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