本研究では、対象物の運動により生じる画像上の局所的な速度と、自己運動により生じる画像全体の速度とを同時に計測するための視覚センサの信号処理機構について検討した。 まず、動画像上の空間的および時間的に局所的な測定量から速度を計算する方法を検討し、画像の微分量から速度を一意に推定するアルゴリズムを定式化した。この方法では任意の点の速度はその点に関する局所量(具体的には5種類の微分値)だけから計算できるため、局所的な速度の計算に適していることが明らかになった。 次に、このアルゴリズムを応用する速度センサの実現に必要な、画像の微分量を計算するための抵抗ネットワークについて検討した。その結果、光センサアレイの信号から微分量を計算できる抵抗ネットワークの構造が明らかになった。この抵抗ネットワークは 1.5種類の微分量が画像上の任意の点で同時に得られる 2.抵抗ネットワークは1層の基板に実装でき、しかも繰り返し構造で実現できる 3.画素と同数のバッファアンプ以外は受動素子だけで実現できる などの特徴を有している。 上記の抵抗ネットワークを小規模な範囲で実際に設計・試作し、さまざまなパターンの疑似画像信号を入力して実験を行った。その結果、速度計測に必要となる微分量がほぼ予想通り得られることが確認された。今後は抵抗ネットワークの規模を大きくすることで、より広い範囲での速度分布とそれらの平均速度とが得られるようになると期待される。 また、本研究の抵抗ネットワークの構造には生体の網膜における視細胞や神経細胞の構造との類似点を指摘することができる。これは本アルゴリズムおよび抵抗ネットワークが初期視覚における信号処理のモデルとなる可能性を示唆している。
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