糞便中に排泄されるウイルスは人への二次感染源となることから、浄化槽を初めとして環境中での動態を把握することは公衆衛生上重要である。しかし、そのようなウイルス、特に環境中に低濃度で存在するウイルスの検出はこれまで実験的に困難であり、腸内細菌群のバクテリオファージの動態研究等で代用されることが多かった。そこで我々は、糞便中に排泄される環境抵抗性ウイルスを実験に用いて、その浄化槽における動態の知見を得ることを目的とした。 環境抵抗性ウイルスのモデルとしてパルボウイルスを用いその浄化槽に於ける動態をPCR遺伝子増幅法で測定した。精製したパルボウイルスを用いて三種類の検出系に関して検討を加えた。細胞培養を用いた検出系では、感染性を持つウイルスだけを検出できるが、通常検出までに十数日間を要し、感度は中程度であり、時間、経費の面で問題があった。またパルボウイルスだけでなく他のウイルスが共存している場合には、さらにウイルス同定が必要であった。ELISAは、パルボウイルスだけを特異的に約30分で検出できたが、感度が低く、細胞培養法の約一万分の一でしかなかった。これに対して、PCRでは他の二法よりも感度は高く、細胞培養法の四十倍以上で、パルボウイルスだけを二時間以内に検出することが出来た。以上の結果より環境抵抗性のウイルス検出にはPCR遺伝子増幅法が適していると考えられ、パルボウイルスを添加した浄化槽でのウイルス動態を測定した。しかし浄化槽内にはPCRの阻害物質が存在し定量的な成績を得ることができなかった。そこでこの阻害物質除去法を検討し、陽イオン界面活性剤が阻害物質除去に効果的であることを見出し、再度測定したところウイルス粒子が汚泥に吸着され濃縮されている現象が観察された。
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