現在の構造安全水準には、人命保全や財産保全について具体的には指標化されてこなかった。そこで、人命と財産の保全という建築物の使命に立ち戻り、震災時の建物被害状況と人命損失状況の関係について考察を行う。過去から現在までの建築構造物が有する耐震安全水準を、地震被害から導かれる定量的な関係を用いて指標化することを目的とする。指標は、信頼性理論に基づく信頼性指標βで表すのが適当と考えた。 既往の被害地震における建物倒壊数と人命損失状況には、比例関係があることを明らかにしてきた。これを、不確定性を考慮にいれた信頼性指標によって表すことを試みた。この指標に基づき、居住者が要望する安全水準や、今後確保すべき安全水準を、社会全体から広く調査していくことを計画し、次の点から今年度の研究を遂行した。 (1)日本における被害地震の地震特性の分類と建物・人命被害状況の把握 (2)構造種別を鑑みた構造安全水準の指標化 (3)居住者や専門家が要望する構造安全水準の意識調査 (1)は、過去の被害地震を地震特性ごとに分類して、その被害状況の概要を把握し、建物の被害状況と家屋の倒壊による人命損失状況の特徴を調査した。大地震時の建築物の被害データから、その被害の甚大さを表すための指標の抽出および安全性レベルを確率として表現できることを示した。(2)では、(1)をふまえて既往のデータに基づく既往の安全水準の指標化を図った。それを基礎として、安全性のレベル変動と社会とがどう関連しているかについて考察した。 (3)の要望調査では、一般居住者の安全水準に対する意識を問うた。潜在的な意識を抽出するよう、心理学的手法に基づく意識調査の基礎調査を実施し、結果を分析した。 以上の成果は、日本建築学会および関連諸学会と紀要論文に発表した。
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