昨年度行った作業は、鎌倉前期の日記である『玉葉』『民経記』『猪熊関白記』などから経路に関する箇所を調べ(これは以前に調べたものも含む)、これを学生に依頼してデータベースに入力した。これによって完成した基本史料DBは1941例に及んだ。つぎに奈良国立文化財研究所所蔵の古記録マイクロフィルムを調査し、必要な指図などを含む『民経記』を複写し紙焼きした。このうち必要な部分は購入したスキャナーによってデータベースに取り込んだ。この詳細史料DBは809例に及んだ。データベースの作成作業は、12月から2月に及び、まだそれを十分に活用した成果を引き出すだけの時間がなかったが、収集した史料から得られた成果を幾つか記す。まず鎌倉前期の寝殿造住宅で玄関の役割を果たしてた中門廊について、主人と客人の経路を整理してみたところ、中門内沓脱・中門廊南妻戸・同北妻戸の3つの出入口が使い分けられ、その格付けが鎌倉時代に変化したこと、その結果、室町時代の主殿のアプローチ形式ができたこと、出入口の使い分けに住宅内部の内方と外方という領域概念がつよく影響していたことなどが明らかになった。その成果については、とりあえず今年度の日本建築学会大会で発表するため、現在梗概を完成させたところであるが、引き続き検討を進めて、本年度中に論文報告集に投稿する予定である。今後は、中門廊以外の出入口を解明するとともに、内部での経路の変化を分析し、部屋が増加して書院造が形成されていく過程を検討したいと考えている。その際には、新たに武家住宅も考察対象に加えたいとも考えている。
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