Cu-Zn-Al等の銅系形状記憶合金マルテンサイト相を時効とすると、逆変態温度の上昇(安定化現象)や、擬弾性挙動の発現(ゴム状弾性)など、その特性が大きく変化することが知られている。 本研究では、マルテンサイト相における規則構造の変化のキネティクスについて、電気抵抗率測定・X線解折・電子顕微鏡観察等を用いた実験を行った。その結果得られた主な知見を以下に述べる。 (1)マルテンサイト相の時効による安定化やゴム状弾性のキネティクスおよび格子定数・残留抵抗率の変化は、母相での前熱処理により大きく変化する。これは、時効効果のキネティクスが焼入れ空孔の濃度に依存することを示唆している。 (2)格子定数の変化が無くても、逆変態温度の上昇やゴム状弾性における変形応力の上昇が顕著に起こる。 (3)これに対して、逆変態温度の上昇・変形応力の上昇と、電気抵抗率の間には非常に密接な関連がある。つまり両者の変化の時間依存はほぼ等しく、安定化もゴム状弾性は必ず電気抵抗率の減少を伴う。 (4)以上により、安定化およびゴム状弾性の原因となる構造の変化は主として短範囲規則度パラメータの変化によるものであると結論される。
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