本研究では、原子の拡散現象の考察の主眼を拡散係数と拡散の活性化エネルギーに置き、原子の拡散メカニズムについて考察することを目的とした.拡散係数と拡散の活性化エネルギーの精密測定が、実験の中心課題であった.拡散をどのように防ぎ、どういった方法で制御するかについては、メタロイドSiの添加によって生じる原子間の共有結合力が有効に原子の拡散距離の低下に作用しているかどうかについて検討を行った. 希土類-遷移金属系多層膜での界面構造はいずれも非晶質状態の界面と同じと考えることができる.本テーマで用いた基本試料は、希土類にTb、遷移金属にFeの非晶質合金系とした. 不活性ガス雰囲気中で試料を昇温させた過程で生じる熱量から、薄膜全域の原子の拡散の活性化エネルギーを検討した.その結果、活性化エネルギーの増加はメタロイドを添加しないものを基準にとって比較すると、添加2%で1.7倍の増加、添加20%で2.0倍の増加になった.また、放射性同位元素を用いた拡散係数の精密測定では、拡散係数が1桁から2桁以上の減少を確認し、拡散の進行が急激に困難になることがわかった. 以上のことは、強力な共有結合力により、原子の拡散する経路がブリッジされたこと、拡散の経路になる準空孔体積が相対的に減少したこと、の二つが考えられる. 特に低温での拡散係数の大幅な低下を示した上記結果は、界面付近の微小距離の測定実験からの結果より導き出したものであり、界面での原子の挙動を正確に反映している.よってこのことから、メタロイドの共有結合性は原子拡散の抑制効果に極めて有効に利用できると結論することができる.
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