本年度は、これまで当研究室が開発してきた耐SCC性鋼である18%Cr-10%Ni-2%Cu-1%Al鋼を基本とし、PおよびMoの添加量を変化させた鋼を用いてこれらの元素がSCC臨界温度(この温度以下の温度域ではSCCは起こらない)に与える影響を調べた。MoはSUS304鋼の製造時に原料スクラップにSUS316鋼が含まれることによる混入が避け難く、P量は価格に及ぼす影響が大きいため、開発鋼の実用化にはPおよびMoの臨界温度に与える影響の検討は不可避であるためである。P量は脱P技術における経済的限界である80ppmに抑えてMoを0.05から0.15まで変化させた鋼およびP量を200ppmにしてMoを0.05から0.15まで変化させた鋼を用いた。それぞれの鋼について220℃までの割れ試験-各温度においてスポット溶接試験片をすきま再不動態化電位直上の電位に72h定電位保持し、試験後溶接部近傍の割れの有無を判定する-を行い、各鋼の臨界温度を求めた。 割れ試験の結果、Mo量(x)およびP量(y)は臨界温度に大きく影響し、これらの低減により耐SCC性は改善された。220℃においては 1.4logx+logy<-3.4 を満たす範囲内にPおよびMo添加量を抑えればSCCを起こすことなく使用できることが分かった。また、18%Cr-10%Niを含む市販のSUS316L鋼の臨界温度は170℃であるのに対し2%Cuと1%Alとを複合添加し、PおよびMo添加量を上式を満たすように抑えた18%Cr-10%Ni鋼のそれは220℃を超えた。
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