石炭の液化反応は硫化水素の共存下で進行し、反応系内の硫化水素が触媒の液化活性に重要な役割を担っている。本研究では、ラジオアイソトープであるトリチウム及び^<35>Sをトレーサーとして使用することにより、石炭液化条件下における水素及び硫黄の挙動を定量的に調べ、各液化触媒の特性評価を行い、次世代型高性能触媒の開発の指針を得た。ラジオアイソトープを用いることにより高温高圧の作動状態における水素及び硫黄の挙動を追跡することが可能とした。 使用した触媒は、まず従来から検討されている硫化鉄系触媒であるピロータイト(FeS_<1-x>)と、鉄系高分散触媒である鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)_5)を用い、硫黄添加と無添加で太平洋炭の400℃、30minのテトラリン溶媒を用いた石炭液化反応に使用した。液化反応後の反応生成物のフラクション分けを行い、各フラクション毎のトリチウム及び^<35>Sの放射能分布の測定を行うことにより、水素並びに硫黄交換量と液化活性との関係、及び液化反応機構を解析を行った。その結果、鉄ペンタカルボニルと硫黄を添加した系において、液化率の向上とともに石炭液化生成物へのトリチウムの分布量がピロータイト系に比較して顕著に増加した。このことから、鉄ペンタカルボニルと硫黄を添加した場合、生成した活性種である硫化鉄は石炭粒子上に極めて効率的に分散し、気相水素と石炭間の水素移行反応を促進したものと考えられた。
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