脂質二分子膜からなるベシクルの形成・崩壊を酸化還元反応により可逆的に制御することは、その内水相を反応場として利用する機能性物質の創製や、Drug Delivery System(DDS)の担体などへの応用の見地からも興味深い。しかし、ベシクルの調製には通常超音波などの外力を加えることが不可欠であり、このことがベシクル形成の可逆的な制御をこれまで困難なものにしてきた。ところで、近年カチオン型とアニオン型の界面活性剤を適当量混合することによりベシクルが自発的に生成することが見出され、注目を集めている。そこで本研究では、酸化還元活性を示すフェロセン修飾カチオン性界面活性剤とアニオン性界面活性剤の混合系を用いて自発形成ベシクルの調製を試み、更にベシクル形成を電気化学的に制御することを試みた。 酸化還元活性なカチオン性界面活性剤(11-ferrocenyl)undecyltrimethyl ammonium bromide(FTMA^+)とアニオン性のsodium dodecylbenzenesulfonate(SDBS)を所定の割合で混合したところ、超音波等の外力を加えなくてもベシクルが自発的に形成することが見い出された。混合溶液の組成をベシクル生成領域の中心(FTMA^+:SDBS:H_2O=0.7:0.3:99wt%)に固定し、酸化還元反応によるベシクル生成の制御を試みた。ベシクルを構成しているFTMA^+を過剰のCeSO_4を用いて酸化し、酸化前後のベシクルの会合状態の変化をサイクリックボルタモグラム(CV)により検討した。酸化後のベシクル溶液におけるCVの電流ピークは、酸化前と比べて著しく増大しており、FTMAの拡散係数が酸化により増大していることが示唆された。FTMA^+が酸化されることによって分子の親水性がより高くなり、FIMAがモノマーとしてバルク中に溶出するためだと考えられる。以上の結果から、ベシクルの会合状態を酸化還元反応によって制御することが可能であることが分かった。
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