研究概要 |
水酸化トリス(リン酸)カルシウム、いわゆる水酸アパタイト、が持つイオン交換反応の交換陽イオンの種類による選択性の違いの原因を明らかにするため、反応後の交換イオンの吸収端付近のX線吸収スペクトルを測定し、その吸収端微細構造(XAFS)の解析を行った。水酸アパタイトは最も結晶性がよくなった水熱法で合成したものを用い、交換陽イオンとしてMn^<2+>,Ni^<2+>,Co^<2+>,Cu^<2+>,Zn^<2+>,Cd^<2+>,ならびにPb^<2+>を使用した。粉末X線回折ではCu^<2+>とPb^<2+>との反応後においてわずかに塩基性リン酸塩の生成が確認されたのみで、他には反応前と比べてほとんど変化は見られなかった。吸収端の高エネルギー側のEXAFSの解析から、Pb^<2+>との反応以外ではフーリエ変換のピーク位置がそれぞれのイオンのリン酸塩のピーク位置とほぼ同じになり、水酸アパタイト中のCaから最近接のOまでの距離よりも短くなった。一方、Pb^<2+>との反応後では水酸化トリス(リン酸)鉛と同様の2本のピークが見られたが、最近接のピーク位置は短距離側にずれ、水酸アパタイト中のCa-O距離とほぼ同になった。すなわち、Ca^<2+>より結晶イオン半径の小さいイオンでは取り込み後の局所構造がそのリン酸塩中とほぼ同じになり、Ca^<2+>より大きいPb^<2+>ではCa^<2+>のときと同じ大きさの空隙に入りこむことがわかった。吸収端付近のXANESを比較すると、いずれのイオンでも水酸アパタイトに取り込まれたイオンはリン酸塩とほぼ同じスペクトルを示したが、リン酸塩に見られる弱いシヨルダーピークがないものが多い。これは、取り込まれた交換イオンがリン酸塩結晶中とほぼ同じ局所構造を持っているが結晶中でのようなわずかな対称性の低下はなく、水溶液中のイオンと同じような高い対称性を持つことを示している。
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