研究概要 |
本研究では、次世代の非線形光学材料として有望視される各種酸化物ならびにカルコゲナイドガラスを作製し、Z-Scan法により非線形光学特性に与えるガラス組成の影響を調べた。Z-Scan法では、試料を透過した入射光のビームプロファイルの微小変化をアパ-チャーを介して高感度に強度変化として検知するので、測定試料の平行度や表面状態が測定結果に多大な影響を与える。これまでは測定試料の機械研磨をしておらず、是非とも研磨機を購入する必要があった。今回、科学研究費で購入した精密研磨機を使用することで、試料の厚さを25μm以下の精度で制御することが可能となり、測定可能な試料が著しく増加した。 アルカリチタノケイ酸塩ガラスを例にとって報告する。K_2O-PbO-TiO_2-SiO_2ガラスは、酸化物ガラスで唯一負の非線形屈折を示す。このガラス組成の中で非線形屈折の符号を負にする因子は、非線形光学特性への寄与が大きいと報告されているチタンか鉛成分と考えられる。しかし、鉛高含有ガラスが正の非線形屈折を示し、二酸化チタン単結晶が負の非線形屈折を示すことから、チタン成分が非線形屈折を負にする支配因子と考えられる。そこで、鉛を含まないアルカリチタノケイ酸塩(K_2O-TiO_2-SiO_2)ガラスから着手した。非線形光学特性は、現有のZ-Scan非線形光学特性評価装置を用いて行なった。光源はNd:YAGレーザーの第二高調波(532nm)を用いた。非線形屈折ならびに非線形吸収は共に正であり、TiO_2含有量の増大に伴い増大した。また、これらの非線形感受率には熱効果(このガラスの場合、見かけ上非線形屈折・吸収を正に大きくする効果)も含まれていることがわかった。しかし、今回作製したTiO_2含有量(10,20,30mol)のガラスではチタン成分が非線形屈折・吸収を正に大きくする働きがあることがわかった。この予想に反した結果は、二酸化チタン単結晶との電子構造の相違(主に、ガラスにおける非線形吸収の起こるエネルギー準位に相当するTi3d軌道の状態密度の低さ)によるものと考えている。
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