研究概要 |
研究計画に従い機能性ルイス酸の提供する反応場を活かしたラジカル的分子内環化反応を行うための基質として、ルイス酸の中心金属との酸塩基複合体形成の足掛りとなるエーテル酸素を有し、末端にそれぞれヨウ化アルキル基と炭素-炭素不飽和結合構造を持つ化合物を選び、合成を行った。反応形式としては、基質のトルエンあるいはジクロロメタン溶液に水酸化トリブチルスズに続いてラジカル開始剤を加え、炭素-ヨウ素結合の均一開裂によって発生した炭素ラジカルが分子内の不飽和結合に付加することによって環化するというものである。 典型金属ルイス酸としてアリルビニルエーテルのクライゼン転位反応の有効な触媒となるアルミニウムトリス(2,6-ジフェニルフェノキシド)(ATPH)を用い、中心金属であるアルミニウムのまわりにフェノール配位子の三つのベンゼン環によって形造られる特異な反応場をラジカル反応のテンプレートとして活用することを試みた。ATPH存在下、触媒量のトリエチルホウ素をラジカル開始剤として基質である鎖上のエーテル化合物から六員環環状エーテルへの分子内ラジカル環化反応を行った結果、望ましい環化体のみがほぼ定量的に得られた。ATPHを用いることなく同様の条件で反応を行った場合、単にヨウ化アルキルが還元された化合物が主生成物として得られ、環化体の収率は著しく低下した。この事実はATPHが分子内ラジカル環化反応を促進するための極めて有効なテンプレートとして機能していることを示している。さらに、エーテル酸素のα位に置換基を有する基質のラジカル環化反応にATPHを適用することで、従来法では得られなかった立体選択性の獲得が可能となることも見い出しており、三次元構造の明確な反応場を持つルイス酸をデザインすることでラジカル反応の反応経路及び立体化学を制御し得ることを初めて明らかにすることができた。
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