研究概要 |
生体における重要な制御機構であるアロステリック制御を人工的に構築し、何らかの機構を実現している例は比較的多く知られているが、触媒機能と結びつけた例はほとんど報告されていない。そこで、遷移金属の優れた触媒能と生体の巧妙な制御機構を組み合わせることによってこれまでにないシステムの構築が可能ではないかと考え検討した。機能としては触媒的不斉合成を設定した。すなわち、ここでアロステリックに伝達される情報はキラリティーである。以下、このシステムの各ユニットに用いた部分構造について述べる。触媒部位にはパラジウム・ホスフィン錯体を、情報の受け手としてはルイス酸性を有するトリアリールオキシアルミニウムを、情報源である制御分子にはルイス塩基の性質を備えた光学活性ホスフィンオキシド類を用いた。また、触媒部位とレセプター部位の間の情報の伝達も行う骨格には触媒的不斉合成に良く用いられるビアリールを用いた。このビアリール骨格の軸不斉が触媒部位に対して不斉環境をもたらす訳であるが、それ自身は不斉ではないが制御分子との相互作用によってはじめて不斉を生じるものを、より具体的には2,2′-二置換ビフェニルを用いた。実際にこれら各成分を混合しシステムを構成したものに(ただしパラジウムは含まない)種々の制御分子を作用させたところ、制御分子のキラリティーがビフェ二ルの軸不斉に効果的に伝達されていることが^<31>P NMR等によって確認できた。得られた錯体を用いてパラジウム存在下触媒反応を行ったところわずかではあるが不斉誘起が見られた。この結果はこの手法が原理的に成立し得る新しい方法論であることを証明するものである。
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