イソニトリルの硫黄-パラジウム間への挿入を素反応に含む新触媒反応を開発しその反応機構を詳細に検討した。 (A)触媒反応:芳香族ジスルフィドと芳香族イソニトリルとの反応をパラジウム触媒存在下反応させると両者の付加体が得られた。イソニトリルに対し、2当量以上のイソニトリルを用いて反応させると、1:2-付加体が高収率で生成した。一方、単離した1:n-付加体を反応基質として用いると、さらにイソニトリルを取り込んだ生成物が得られることが分かった。最高9分子のイソニトリルが取り込まれた付加体を単離するができた。この触媒反応には、パラジウムと同族の白金錯体は全く触媒活性を示さなかった。 (B)反応機構:反応機構に関して検討した結果、ゼロ価パラジウムへのジスルフィドの酸化的付加、イソニトリルの配位を経て触媒反応の活性種が生成することが分かった。中間体の錯体は単離して同定した。1:1-付加生成物とゼロ価パラジウムとの反応によっても同じ活性種に変換されることから、パラジウム-硫黄間へのイソニトリルの挿入および1:1-付加体の還元的脱離はいずれも平衡であり、前者の平衡は脱挿入の方に大きく片寄っていることが判明した。1:n-付加体の還元的脱離により生成するゼロ価のパラジウムがジスルフィドの酸化的付加を受けることにより1回のサイクルが完結する。一方、白金錯体を用いた量的反応を検討したところ、パラジウム触媒の活性種の場合と全く同じ型の錯体が生成するもののイソニトリルの白金-硫黄結合間への挿入が脱挿入の方向への付可逆過程であり、このことが白金錯体が触媒活性を示さない原因であることが明らかとなった。
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