研究概要 |
光学活性なジオールをテンプレートとし、そのビス(4-ビニルベンゾエ-ト)とスチレンとの環化共重合を行い、さらに生成ポリマーの加水分解によって不斉テンプレートを除去し、最終的にジアゾメタンで処理して生成するスチレン-4-ビニル安息香酸メチルコポリマー(1)はテンプレートから誘起される主鎖不斉炭素の絶対配置に基づく旋光性を示す。その旋光性はテンプレートの構造によってのみ影響されるので、種々のテンプレートを使用して生成する1の旋光性を調べ、不斉有機能の大きいテンプレートを模索した。テンプレートであるキラルなジオールの構造因子としては、ふたつの水酸基間の二面角、距離、また水酸基近傍の立体効果等が考えられる。そこでまず距離の効果を検討するためテンプレートに2,3-ブタンジオール(2)、2,4-ペンタンジオール(3)、2,5-ヘキサンジオール(4)を用いて同様に1を合成したところ、これらから誘導した1の比旋光度はそれぞれ-8°、-46°、-24°であり、1,3-ジオールが有効であることがわかった。さらに立体効果の影響を調べるため2,3-ブタンジオールの1,4位をジオキソラン環で置換した構造を有する1,2:5,6-ジイソプロピリデン-D-マンニトール(5)をテンプレートに用いたところ旋光度-+24°の1が得られ、立体効果が非常に大きい影響を及ぼすことがわかった。さらに8のジアステレオマ-である1,2:5,6-ジイソプロピリデン-D-グルシトール(6)、1,2:5,6-ジイソプロピリデン-L-イジトール(7)を用いたところ、6からは5からのものと同程度の比旋光度を有する1が得られたが、7からは-14°とほぼ半減した。これは10の立体障害が不斉誘導に働くのに不利な方向にあるためであると結論した。以上のことにより、不斉有機能の大きいテンプレートの設計指針としては、非環式の1,3-ジオールで、水酸基近傍に適当な立体障害を持たせることが肝要であることがわかった。
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