非晶性ポリマーであるポリメタクリル酸メチルをガラス転移温度Tg以下で熱処理(physical aging)し、各時間における光散乱強度の経時変化を調べたところ、散乱強度はaging初期でいったん増大し、その後減少することを発見した。得られた光散乱プロファイルをDebye-Bueche理論により解析した結果、200nm程度の相関長をもつ密度揺らぎがいったん増大した後減少することがわかった。これはagingにより緻密化する前に、粗密化することを示唆する。また、aging初期において2つのTgを示すDSC曲線が得られた。この結果はaging初期の大きな密度揺らぎは低密度領域と高密度領域に分離した二相性を示すという光散乱の結果を支持する。熱処理温度Taが低くなるに伴い2つのTgの差が大きくなることから、低Taほど初期に形成される密度揺らぎが大きいと考えられる。さらにagingさせると、エンタルピー緩和による吸熱ピークが発現する。ピーク面積の経時変化を調べ、それを伸張指数関数を含むKWW式で解析し、緩和時間の分布を表す非指数関数パラメーターβと緩和時間τを求めたところ、Taの低下とともにβの値は小さく、つまりは緩和時間の分布が広くなることが明らかになった。aging初期で形成される密度揺らぎは低温ほど大きいことから、その密度揺らぎの存在により緩和時間の分布が広くなることが考えられる。
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