本研究ではテンサイ細胞質雄性不稔性(CMS)とcoxl遺伝子発現の関係について以下の実験を行った。 1.翻訳レベルの解析 研究計画に従い抗COXl抗体を作製し、正常株、CMS株および稔性回復株の様々な器官より抽出したミトコンドリア蛋白質に対してウエスタンブロット解析を行うとともに、花芽の切片を作製し免疫染色を行った。その結果、正常株、CMS株および稔性回復株間でいかなる差異も検出されなかった。従って以前に観察された正常株とCMS株のcoxlのmRNAの差異は翻訳レベルの差異となっては現れないことがわかった。 2.遺伝学的解析 CMS株におけるcoxlの変異mRNAが稔性回復株において正常株のタイプに復帰する現象が稔性回復遺伝子(Rf)の作用であるか否かを調査するためRfを分離しているBC1集団を育成し花粉稔性とcoxl転写パターンの相関を調査した。その結果、花粉稔性とcoxl転写パターンは独立であり、転写パターンの復帰は別の遺伝子座の作用であることがわかった。この遺伝子座をRct(Reverter of coxl transcript)と命名した。 本研究によりcoxlがタンサイCMSと無関係であることが明らかになったが、幸運にもミコトンドリア遺伝子発現に関わる核遺伝子Rctを見出すことが出来た。Rctは核と細胞質の相互作用を調べる上で興味深く、今後その作用やクローン化に向けた解析を進めていきたい。またテンサイCMSに関してもcoxl以外の領域を解析の対象として実験を行う予定である。
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