本研究課題ではダイコンのオグラ型雄性不稔細胞質に対する稔性回復遺伝子の単離を究極の目的に分子遺伝学的実験を行った。今年度の実験では遺伝子を実際にクローニングすることはできなかったが、そのための基礎となる稔性回復遺伝子と連鎖するDNAマーカーの選抜について、方法論的に格段の進展をみた。すなわち、申請書記載のRAPD法に変えて、AFLP法を非RI環境下で実施できるよう改良し適用した結果、連鎖DNAマーカーの選抜効率が飛躍的にあがった。具体的には、植物材料としてダイコン雄性不稔系統'MS源助'と稔性回復系統'コメット'、ならびにこれら2系統の交配により得られた多数のF2個体を用い、定法によってまずこれらの全DNAを調製した。F2各個体の稔性を調査して可稔・不稔に区分けした後、区ごとにDNAを等量ずつ混合し、可稔・不稔両バルクDNAを調製した。AFLP分析に用いるプライマーをDig標識し、前述のバルクDNAを鋳型にPCRを行った後、増幅DNA断片をポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。DNA断片をナイロン膜へ転写した後、アルカリフォスファターゼを結合した抗Dig抗体を反応させ、化学発光によりX線フィルムを露光した。この方法により非RI環境下で従来のRI標識による方法と同等のAFLPパターンを初めて検出することができた。本実験では、僅か2つのプライマーペアにより、約130ものバンドを検出することができたが、可稔・不稔両バルク間のAFLPパターンはほとんど同一であった。その中で不稔バルクには存在せず、可稔バルクに特異的に存在するAFLPバンドを1本発見することができた。また、親系統のAFLPパターンの解析から、このバンドが'コメット'由来であることもわかった。現在、このバンドをクローニングして解析するとともに、稔性回復遺伝子単離の起点として適当か否か種々の検討を重ねている。
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