研究概要 |
本研究では,粒重が大きく異なるイネ5品種,ササニシキ(玄米乾物重20.9mg),アキヒカリ(22.6mg),フクノハナ(25.7mg),房吉(33.5mg),オオチカラ(39.6mg)の強勢な穎果を用いて,穀粒生長速度(Grain Growth Rate : GGR),有効乾物蓄積期間(Effective Filling Period : EFP),最終粒重,胚乳細胞数,胚乳中の糖濃度の関係について解析した. ポットで分げつ除去,土耕栽培した.出穂直前にファイトトロンに移動し,登熟期の温度環境を一定に保った.穎果の直線的な乾物蓄積期間に一定の間隔で数回と完熟時にサンプルを行い,新鮮重,乾物重を測定した.このデータからGGRやEFPを算出した.さらにこのサンプルについて,エタノールで糖の抽出を行い,イオン交換樹脂を通した後,TMS化を行い,ガスクロマトグラフィで糖含量を測定した.胚乳細胞数の測定法には,穀粒の完熟後,横断切片と縦断切片から細胞数を測定する方法を用いた. 最終粒重が大きい品種ほど胚乳細胞数が多く,胚乳細胞当たりの乾物重も多くなった.最終粒重にはGGRもEFPも有意に影響したが,GGRの影響の方が大きくなった.このGGRへは胚乳細胞数と胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度の両方が影響していた.胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度は,胚乳の糖濃度が十分にある場合には,胚乳細胞の乾物蓄積能力の影響を受け,胚乳の糖濃度が不十分の場合は,胚乳の糖濃度の影響を受けると考えられる.今回の実験では,品種間における胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度と,胚乳の糖濃度との間には,正の関係が見られなかった.むしろ,胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度が大きいものほど,胚乳の糖濃度が低い傾向がみられた.これは,胚乳の糖濃度十分であることを示しており胚乳細胞当たりの乾物蓄積速度は糖を乾物すなわちデンプンに変換する能力により決定されていることが示唆された。
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