水稲の多収性品種の中には、登熟期の葉身の老化が遅く、光合成炭酸固定酵素であるRuBPCase含量が高く維持され光合成速度が高く維持されることにより乾物生産量および収量が高い品種があり、葉身の老化がおそい要因として根から地上部に送られるサイトカイニン量が多いことが明らかにされている。遺伝的に老化の遅い性質を備えた品種では根で作られ葉身に送られるサイトカイニンが多いことが関係して、葉身のRuBPCaseの合成量が高く、酵素量が高く維持されている可能性が考えられる。そこで本研究では、水稲の葉身の老化制御機構を明らかにする目的で、葉身の老化程度が異なる品種アケノホシと日本晴を用いて、登熟期における葉身の老化過程で、地上部に送られるサイトカイニン量、葉身中のサイトカイニン量がどのように変化するのか、RuBPCaseの酵素量、遺伝子発現との間にどのような関係があるかを検討した。 その結果、葉身の老化の遅いアケノホシは老化の早い日本晴に比べて、登熟期間中、止葉および第III葉のRuBPCase含量は高く維持され、またRuBPCaseのmRNA量は高く、遺伝子の発現量が高い傾向が認められた。茎基部の出液中のサイトカイニン量は、登熟期間中、アケノホシが日本晴に比べて高く推移し、葉身のRuBPCase含量との間には相関係数0.96の有意な正の相関関係が認められた。葉身中のサイトカイニン量をELISA法によって定量した結果、登熟期を通じて、アケノホシの止葉中のゼアチンおよびゼアチンリボシド含量は日本晴より高く推移し、RuBPCase含量との間には、0.56の有意な正の相関関係が認められた。 サイトカイニンとRuBPCase含量との間に密接な関係があることが明らかとなったので、今後はさらにサイトカイニンがどのような過程を通じてRuBPCaseの遺伝子発現制御に関与しているかを明らかにする必要がある。
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