はじめに、本研究の目的の一つであるズブチリシンALP Iの発現系の確立を行った。ズブチリシンALP Iは、大腸菌での発現系では活性型の酵素を得ることが困難であったため、枯草菌を宿主とした発現形を構築した。ここでも、ズブチリシンALP Iをコードする遺伝子aprQのプロモーターを用いた発現系では、大量調製ができなかった。そこで宿主とした枯草菌のごく近縁種の生産するズブチリシンNATのプロモーター領域をaprQの上流に連結させることによって大量発現に成功した。以下の実験には本発現系を用いた。 ズブチリシンALP Iは界面活性剤に対する耐性は示すが、アルカリ条件下での安定性はあまりない。そこで、耐アルカリ性に優れたアルカリズブチリシンSendaiの構造の一部をズブチリシンALP Iの対応する領域と入れ替えることでキメラ・ズブチリシンを作製しその性質を明らかにし、各種安定性の構造的要因を明らかにしようとした。アルカリズブチリシンに共通して保存され、ズブチリシンALP Iには保存されていない13のアミノ酸一次配列構造を抽出した。これらの構造のうちの一つ、C末端のアミノ酸配列-Tyr-Ala-Ala-Gln^<273>をズブチリシンSendaiに代表されるアルカリズブチリシン型-Ala-Ala-Thr-Arg^<269>に置換したキメラズブチリシンALP Iを作製し、各種安定性を調べた。その結果、キメラズブチリシンはズブチリシンALP Iよりもはるかに強いアルカリに対する耐性を獲得していた。また熱安定性も野生型に比べて5℃以上向上しているばかりでなく、界面活性剤隊に対する耐性も野性型の酵素に比べてはるかに向上していることが明らかになった。以上より、このキメラ酵素作製法は超安定化酵素造成の優れた方法であり、C末端領域がズブチリシンの安定性に大きく寄与していることが明らかになった。
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