研究概要 |
本研究において達成できた成果は以下の通りである。 1。Candida tropicalisのイソクエン酸リアーゼ遺伝子の5'-上流領域(UPR-ICL)のcisacting elementの同定。以前に、UPR-ICL上で酵母Saccharomyces cerevisiae内で機能するproA領域と大腸菌Escherichia coli内で機能するproBとを同定した。本研究では新たに、S.cerevisiae内でUPR-ICL上の2つの領域(region A1,-728 to-569;region A2,-370 to-356)が酢酸培養時に転写活性化能を有すること、それらが独立した情報伝達系によって制御されていることが明らかになった。特に、region Alを支配する情報伝達系(Snflp依存型、Cat8p非依存型、Miglp依存型)はS.cerevisiae内で未だに同定されていない新規な経路である可能性がある。また、UPR-ICL と同様な遺伝子発現能を有するリンゴ酸シンターゼ遺伝子の5'-上流領域についても同様な解析を行ったが、これもSnflp依存型、Miglp依存型であったが、意外なことに、global transcriptional activator の1つであるRaplpの関与が示唆され、UPR-ICLとは異なった調節機構に支配されていることがわかった。 2。Candida tropicalisのイソクエン酸リアーゼ遺伝子の5'-上流領域(UPR-ICL)を制御する細胞内調節因子の同定。invivoのアプローチを用いて、UPR-ICL-LacZ融合遺伝子を利用することにより、S.cerevisiae内でUPR-ICLが機能しない単一変異株の取得およびその相補遺伝子(FIL1,Factor for Isocitrate Lyase Induction 1)の単離に成功した。構造解析の結果、その遺伝子は原核細胞でしか同定されていなかったribosome releasing factor(RRF)と高い相同性を示した。N末端領域が他のすべてのRRRFより突出していたことから、それがミトコンドリアに局在することが予想され、実験的に証明された。また、△fill破壊株ではミトコンドリア内のタンパク合成が異常であること、その異常がrho^0株やミトコンドリアのタンパク合成を特異的の阻害するクロラムフェニコールで処理した細胞でみられる異常と類似していたことを見いだした。さらに、△fill破壊株ではS.cerevisiaeに内在するICL1、FBP1などのグリオキシル酸回路や糖新生系酵素の遺伝子発現が特異的に抑制されていることも明らかとなった。これらのことから、glucose repressionによって発現が抑制されているいくつかの遺伝子の抑制解除にはミトコンドリアの正常な機能が必須であることが明らかになった。
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