これまでにヒト抗体産生細胞が植物レクチンの刺激により本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現することを明らかにした。こうした軽鎖の産生パターンを変化させた細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていた。この現象はこれまで明らかにされている抗体の多様性獲得機構とは全く異なるものであり、この現象を軽鎖交換機構(Light chain shifting)と呼ぶこととし、その解析を行った。軽鎖が置き換わるには少なくとも2つの段階の介在が想定される。つまり、オリジナル軽鎖の消失過程と新しい軽鎖の発現過程である。まずオリジナル軽鎖の消失に関しては、転写レベルでその著しい低下が観察されたことから、軽鎖の発現阻害が転写レベルにおける何らかの障害によるものと示唆された。オリジナル軽鎖の消失とレクチン刺激との関係ではレクチンは細胞に対して様々な影響を与えることが知られていることから、レクチン以外に同様の効果を発揮し、且つ作用点がある程度はっきりした因子のスクリーニングを試みたところcaffeineにその活性があることが明らかとなった。新しい軽鎖の発現に関しては、抗体遺伝子のV(D)J組み換えの関与が予想されたため、最近同定されたV(D)J組み換え誘導遺伝子RAGの発現をRT-PCRによって解析したところ、軽鎖交換を生じる細胞ではRAG遺伝子の発現が観察された。RAG遺伝子の発現は抗体遺伝子の発現を完了した未熟B細胞において消失することが知られており、抗体産生細胞といった最終分化期にある細胞での発現の報告例は皆無である。今後、抗体産生細胞におけるRAG遺伝子の発現機構の解析がLight chain shiftingの解明にとって重要であると考えられる。
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