腸球菌Enterococcus faecalisが分泌する細菌の性ペプチドフェロモンは、溶血素、バクテリオシン、そして種々の薬剤耐性などをコードしているプラスミドの接合伝達を活性化する。本研究では、プラスミド供与菌がどのようなメカニズムにより性ペプチドフェロモンのシグナルを感知しているかということを明らかにするために、トリチウムラベルフェロモンを調製し、以下の事実を明らかにした。フェロモンは細胞壁そして細胞膜を透過し、細胞内へ取り込まれる。次に、フェロモンはTraAというフェロモン受容体に結合し、そのTraAがプラスミド接合伝達に必要なタンパク質等の発現を活性化するという仕組みである。またTraAの機能を解析するために、TraAを大腸菌にて大量発現し、ラベルフェロモンとの相互作用を研究した。非常に興味深いことに、この性ペプチドフェロモンは現在までに5種類の物が構造決定されているが、演者らが研究したバクテリオシンをコードするプラスミドpPD1のTraAフェロモン受容体は、一種類のペプチドフェロモンのみを結合した。つまりフェロモンとプラスミドは受容体によるフェロモンの認識という観点において一対一の関係にあるということがいえる。このようにペプチド性のシグナル物質が細胞膜を透過し、細胞内の制御タンパク質に直接結合し活性化させる機構は、今まで細菌の世界のみならず、全生物界であまり知られておらず、きちんと証明されたのは今回が世界で初めてであると考えている。
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