MHCクラスII分子であるI-A^d分子拘束的に卵白アルブミン(OVA)の323-339残基(OVA323-339)を認識するT細胞レセプター(TCR)を発現するTCRトランスジェニックマウス(TCR-Tgマウス)を用い、抗原ペプチドアナログに対する免疫応答を解析した。すなわち、既に明らかにされているOVA323-339のTCR及びI-A^d分子との結合に重要なアミノ酸残基の情報をもとに、これらの残基を置換したOVA323-339のアナログペプチドを30種類合成し、TCR-Tgマウス由来抗原未感作脾臓細胞のアナログペプチドに対する増殖応答、サイトカイン産生、in vitro IgG抗体産生を検討した。T細胞の増殖応答、全脾臓細胞のin vitro IgG抗体産生の結果から、アナログペプチドが誘起する免疫応答は次の4つに分類できた。(A)OVA323-339で刺激した場合と同様に、強いT細胞増殖応答を示し抗体産生を抑制する、(B)弱いT細胞増殖応答を示し抗体産生を抑制する、(C)T細胞増殖応答を示さないが強い抗体産生を誘導する、(D)どちらの応答も示さない、という応答である。抗原未感作T細胞のアナログペプチドに対するサイトカイン産生応答を調べた結果、(A)の反応を誘起したペプチドはT細胞にIL-2、IFN-γ産生の優勢なTh1型のサイトカイン産生を誘導したのに対し(B)の反応を誘起したペプチドの中にはIL-4、IL-5産生の優勢なTh2型のサイトカイン産生を誘導するものがあった。これらの結果よりTCR/抗原ペプチド/MHC分子の相互作用のわずかな相違により抗原未感作T細胞の機能が質的に変化することが明らかになり、さらにそれがT細胞の終末分化に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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