生体膜を構成する脂質二重膜はエネルギー的に安定な構造であり、2つの生体膜が接近しても容易に融合することはない。しかし生体内では盛んに膜の融合が生じ、細胞内区画の形成、選別輸送、消化酵素の分泌などが営まれている。したがって細胞内には、生体膜の融合を円滑にコントロールする何らかの分子機構が存在すると予想されるが、これまでのところ生理的な速度で速やかに膜融合を引き起こす分子機構の実体は明らかになっていない。本研究では、生体膜のすみやかな融合には特異的な酵素反応が関与していると仮定して解明を進めた。その結果、つぎの2点を明らかにした. (1)生体膜のすみやかな融合には、生体膜の部分的な酵素的加水分解(ホスホリパーゼ反応)が特異的に関与している可能性がある。ホルモン刺激に応答して一斉に膜融合を引き起こす分泌型培養細胞を用い、放射性同位元素によってプレラベルした生体膜リン脂質の分解産物を薄層クロマトグラフィとバイオイメージングアナライザーによって経時的に追跡すると、リゾリン脂質のうちホスファチジルエタノールアミンに由来するものが特異的に上昇した。ホスホリパーゼ阻害剤を細胞に付加するとリゾリン脂質の生成の抑制とともに分泌も抑制された。 (2)生体膜の融合にホスホリパーゼ様酵素反応か関与している場合、この反応は非刺激時には厳重に制御されているはずである。この観点から、ホスホリバーゼA2阻害因子として作用する分子サイズ36Kのリポコルチン(アネキシン)類似分子ZAP36を分泌顆粒膜上に見い出した。調製したcDNAから組み換え型ZAP36を大量生産し精製標品を得た。これを用いて特異抗体を調製した。精製標品を用いたインビトロ実験によってリン酸化、カルシウム結合性、リン胎質との結合性、ホスホリパーゼ阻害活性などを調べた。これらの知見から、ZAP36の膜融合への関与が示唆された。
|