森林土壌表層での水の溶存イオンの下層への移動をD_2Oと^<15>NH_4Clをトレーサーとして用いて定量的に解析した。本研究では、はじめにポリスチレン-ジビニールベンゼン重合態からなる疎水性ホ-ラスポリマーに白金を担持させた触媒カラムを自作し、そのカラムに水吸収用モラキュラシーレブ5Aを組み合わせたTCDガスクロマト法によって重水素標識水を簡易に高精度で測定する方法を確立した。さらに、植生あるいは土壌型の異なる森林から非撹乱の土壌カラムを採取して、これに重水素標識人工降雨を様々な条件で降らせ、土壌通過水の挙動を詳細に解析した。この実験に際して申請者はステップモーターと定量ポンプからなる人工降雨装置を自作して、土壌に任意の強度の降雨を均等に滴下させる方法を用いた。滴下は雨量4〜10mm/時で連続5〜10時間行い、トレーサーとしてD_2Oと^<15>NH_4Clを添加した。 その結果、褐色森林土の土壌表層部分では降雨にともなう重水標識水の流出と同時にCl^-およびMg^<2+>、Ca^<2+>濃度の増加が認められたが、カラム下層への^<15>NH_4^+_-N移動はほとんど認められなかった。また、土壌中でのMg^<2+>とCa^<2+>の鉛直方向の移動速度は重水のそれとほぼ一致していたことを明らかにした。さらに、林床有機物層を除去した林地では、^<15>NH_4^+_-Nもまたその大部分が重水標識水とともに鉛直方向に移動していた。一方、黒ボク土では土壌にアニオンが吸着され、重水標識水の流出が認められにも関わらずCl^-濃度の明らかな増加は認められない事実を直接的な定量数値で示し、これまで水の移動を推測するのに用いていたCl^-が水の動きと異なる場合もあることを明らかにした。
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