1年生ユ-カリ(Eucaliptus viminalis)苗木の樹高中間部を、頂芽が下向きになるようにU字型に湾曲させて固定し、10日おきに計5回湾曲部の幹をサンプリングした。controlとして湾曲処理を行わない苗木の樹高中間部をサンプリングした。サンプリング試料を重力方向に対して上部(あて形成部)と下部(非あて形成部)に2分割した。試料の一部から木粉を調整しアルコール・ベンゼン抽出後、リグニン定量ならびにニトロベンゼン酸化によるS/Vを測定した。残りの試料は剥皮後、形成層を含む木部の薄切片から可溶性ペルオキシダーゼ(SPO)画分、イオン結合性ペルオキシダーゼ(IPO)画分を調整し、グアイアコールとシリンガアルダジンを基質として活性を測定した。 上部のリグニン含有量は処理日数の経過とともに減少し、下部およびcontrolのリグニン量は変化しなかった。バニリン収率は上部、下部ならびにcontrolで変動が小さく、近似した値となったが、シリンガアルデヒド収率は処理30日目以降、上部で大きく上昇した。その結果、あて部のS/Vは非あて部やcontrolと比較して処理の後半で大きくなった。 SPOならびにIPO画分のグアイアシル核とシリンギル核に対する基質特異性を比較した結果、SPO画分では大きな変動はなかったが、IPO画分ではシリンギル核に対する特異性がS/V比の上昇とともに高くなった。以上の結果から、広葉樹のあて形成に際して、シリンギルリグニン生合成に特異的な酵素群が優先的に発現される可能性が示唆され、また、広葉樹のあて形成はシリンギルグニン生合成に関する有力なin situモデル実験系となりうることが明らかとなった。なお、あて形成の際のIAAの変動に関しても追跡を試みたが、質量分析器の検出限界範囲内で定量可能なレベルのIAAを検出することはできなかった。
|