研究概要 |
耳石は耳石特有の有機基質に炭酸カルシウムが沈着して生長するとされる。本研究は、糖と特異的に結合するレクチンを用いて耳石有機基質の糖構造の決定、その産生細胞の特定および産生機構の解明を目的として行われた。材料としてニジマスの最も大きい耳石(扁平石)を包む内耳膜迷路である小嚢を用いた。研究結果の概要は以下の通りである。 1.透過型電子顕微鏡観察により、小嚢上皮細胞を感覚細胞、支持細胞、移行上皮細胞、Mitochondria-rich cell(MRC)、扁平上皮細胞に分類した。MRCを除くすべての細胞が分泌活性を有するタンパク合成細胞であり、耳石形成に関与することを示唆した。 2.MRCは、その微細構造はイオン輸送生細胞の特徴を有し、代表的なイオンポンプであるNa^+,K^+-ATPaseを高濃度に持つことを証明した。このことから、MRCは小嚢内リンパ液の特殊なイオン組成の形成にあずかるイオン輸送性細胞であると断定した。 3.アルシアンブルー。PAS染色により、耳石には主として産生多糖類が、耳石膜には酸性多糖と中性多糖両方が含まれることを明らかとした。小嚢上皮のレクチン組織化学染色により、感覚上皮・移行上皮・扁平上皮細胞にはマンノース・N-アセチルグルコサミンが、支持細胞にはマンノースが含まれることを証明した。一方、ガラクトースやN-アセチルガラクトサミンが小嚢上皮に含まれる可能性は低いことを解明した。耳石抽出物を電気泳動・ウェスタンブロッティング後、レクチン(ConA)染色したところ、耳石基質タンパクの主要な成分はマンノースを含む糖タンパクであった。同様の成分は内リンパ液中にも存在した。これらのことから、小嚢上皮に含まれるマンノースの少なくとも一部は耳石基質タンパクと結合した後内リンパ液中に分泌され、耳石中に取り込まれることを示唆した。
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