マダイの卵成熟能獲得機構を解明するため、生理学的・分子生物学的解析を行った。産卵前日の朝8時には、卵母細胞は卵成熟能を備えていなかったが、夕方4時には卵成熟能が獲得されていた。さらに、産卵前日の朝8時にin vitroに取り出した卵巣片を生殖腺刺激ホルモン存在下で9から12時間培養することにより、卵成熟能を大幅に上昇させることができた。また、同様の卵成熟能は、インシュリン様成長因子においても誘起することが可能であった。 この卵成熟能獲得過程で特異的に転写が促進される遺伝子を同定するため、産卵前日の朝8時、および夕方4時に取り出した卵巣より全RNAを抽出し、ディファレンシャル・ディスプレイPCR法による解析を行った。その結果、卵成熟能を獲得した卵巣においてRSCOSR(red seabream competent ovary specifie RNA)1、2、および3の3種類のPCR-増幅断片を得ることができた。RSCOSR1、2、3はそれぞれ180、450、300塩基対であったが、既知の塩基配列との相同性は認められなかった。一方、ギャップ結合タンパクである、コネクシンに対する特異的プライマーを用いたPCRでは哺乳類のコネクシン26と相同性の認められる約350塩基対のDNA断片が卵成熟能を獲得した卵巣で特異的に増幅された。 今後これらのクローンのcDNA全長をクローニングすると共に、卵成熟能獲得時におけるその機能を明らかにしていく予定である。
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