研究概要 |
動物にとって生殖能力の獲得は種の保存のために不可欠の要素であり,その過程は神経系および内分泌系により制御されていると考えられる.したがって,個体における内分泌機能を統合し,また神経系と内分泌系の機能を中継・連絡する器官としての役割を果たしている下垂体の機能の成熟は,個体の成長のみならず種の保存のためにも重要である.本研究では,出生から性成熟に至る時期におけるラットの下垂体,特に生殖機能に直接関係する卵胞刺激ホルモン(FSH)産生細胞の発達と成長因子アクチビンの関与について検討した. 免疫細胞染色法により下垂体FSH産生細胞数の加齢に伴う変動を調べてところ,雌雄ともに出生後1週齢では相対的に低値を示すが,3週齢にかけて増加し,5週齢以降はほぼ一定の高値を示した.これは1週齢から3週齢にかけて1/5以下に急激に低下する血液中のFSH濃度の推移とは著しく異なっており,この時期の下垂体においてFSH産生細胞の数のみならずその性状にも著しい変化が起こっていることを示している.細胞の性状変化を調べる目的で,無血清培地中で培養した各週齢の下垂体細胞のアクチビンに対する反応性を比較検討したところ,1週齢ラットの細胞では顕著な反応が見られなかったのに対し,3週齢以降のラットの細胞ではアクチビンによりFSH産生細胞数に顕著な増加が見られた.さらに,1週齢から3週齢にかけてアクチビンIIB型受容体(ActRIIB)を発現する細胞数も顕著に増加すること,培養条件下でアクチビン自身がActRIIB発現細胞数の増加をもたらすことが明らかとなった.以上の結果から,ラット下垂体の成熟において出生後のある時期からアクチビン依存度が増し,この成長因子が性成熟に至るまでの下垂体細胞の成熟・分化を制御する因子のひとつとして役割を果たしていると推察された.現在は,アクチビン感作を受けた個々の下垂体細胞の成熟・分化を明らかにする目的で,セルソーター等を用いてActRIIB発現細胞の細胞種の同定および単離を試みている.
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