血管内皮は免疫担当細胞の細胞障害作用の場として障害を受けやすい組織でありながら、その細胞死の機構については殆ど分かっていない。本研究は動物大動脈由来の内皮細胞初代培養標本を用いて細胞死の機構を検討することを企図し、以下の成績を得た。 1.出血性ヘビ毒の内皮細胞障害作用 ウシ大動脈由来の培養内皮細胞において、代表的出血性ヘビ毒であるガラガラヘビとハブ毒は時間濃度および温度に依存した細胞障害作用を示した。これらの作用は細胞内外からのCa^<2+>除去、蛋白合成阻害薬、ホルボールエステルなどの処置によって全く影響を受けなかった。ヘビ毒を56度全処置しただけで、障害作用は全く失われた。電顕によれば、ヘビ毒処置により、比較的早期に細胞膜が強く傷害され、核クロマチンの凝集が観察され、ミトコンドリアには強い作用は見られなかった。ヘビ毒処置細胞の低分子量DNAのアガロースゲル電気泳動より、DNAの強い断片化が検出されたが、その性状はアポトーシスに典型的なラダー状を示さなかった。これらは、ガラガラヘビおよびハブ毒に含まれる易熱性因子によりネクローシス様の血管内皮細胞死が起きることを示している。 2.プロテインキナーゼ阻害薬スタウロスポリンによる内皮細胞障害作用 プロテインキナーゼCなどいくつかのセリン/スレオニンプロテインキナーゼCに強力な阻害作用を持つスタウロスポリンはウシ、ブタの大動脈内皮細胞に濃度依存性の障害作用を示した。低分子量DNAのアガロースゲル電気泳動はアポトーシスに特徴的なラダー構造を示した。核染色によれば、スタウロスポリン処置細胞集団の半分程度がクロマチン凝集を示した。これらは内皮細胞においてスタウロスポリンがアポトーシスを起こすことを示す初めての観察である。プロテインキナーゼC阻害作用を持つH-7も同様に細胞死を起したが、K-252a、L-252bの作用はごく弱かった。また、チロシンキナーゼ阻害薬、カルモジュリンキナーゼ阻害薬、ミオシン軽鎖キナーゼ阻害薬、環状ヌクレオチド依存性キナーゼ阻害薬は観察した濃度では全く細胞死を起さなかった。神経細胞などでスタウロスポリはセラミド代謝を増加することが報告されているが、C2-セラミドにより内皮細胞のアポトーシスが観察された。これらの成績より、スタウロスポリンはプロテインキナーゼC活性阻害以外の作用により血管内皮細胞のアポトーシスを起こすことが示唆される。今後この機構にセラミド代謝が関与するか否かについてさらに検討する予定である。
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