ウサギ冠動脈平滑筋の単離細胞を常法により作成し、パッチクランプ法によりKチャンネルの性質を調べた。本研究では、細胞外溶液のNaイオンをKイオンに置き換え、細胞内外のKイオン濃度を同一にすることによりKイオンの平衡電池を0mVとし、-60〜-50mV付近のドライビング・フォースを大きくすることで、生理的な膜電位の範囲でKイオン電流を内向き電流として記録することを試みた。その結果、通常の細胞外液においては外向きKイオン電流は-30付近からしか検出されないのに対して、高濃度Kイオン溶液中では-50mVから内向きKイオン電流が観察できることを見いだした。内向き電流として記録されたこのKイオン電流は、各種Kチャンネルの特異的阻害薬を用いた薬理学的解析により、主に遅延整流K電流であることが判明した。次にこの方法を用いて、冠動脈平滑筋細胞のKチャンネルに対するcAMPおよびcGMPの作用を調べた。細胞内cAMPレベルを上昇させる、β-アドレナリン受容体刺激薬であるイソプロテレノール、およびアデニル酸シクラーゼ活性薬であるフォルスコリンは、いずれもlarge-conductance Ca activated K Channel(BKチャンネル)を活性化することが示された。しかしその効果は膜電位が+側である場合のみ観察され、生理的に意味のある効果であるかどうかは現在のところ不明である。一方、細胞内cGMPレベルを上昇させる、NOドナーであるニトロプルシッドやSIN-1は、同様にBKチャンネルの活性化をもたらしたが、これに加えて、生理的な膜電位の範囲で少なくとももう一種類別のKチャンネルを活性化することが示された。このKチャンネルがどんな性質のチャンネルであるかを現在検討中である。
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