本研究の目的は、既に我々が開発したリンパ管カニュレーション標本を用いて、病的状態(炎症・腫瘍)下におけるリンパ動態を解析することにあった。 まず、病的状態と対比する意味で、生理的状態におけるリンパ管の圧流量関係を検討した。実験にはウサギ膝窩リンパ節の節前リンパ管カニュレーション標本を用いた。始めに、逆行性カニュレーション標本を用いてリンパ液の流出圧流量関係を求め、次いで、順行性カニュレーション標本を用いてリンパ液の注入圧流量関係を求めた。これら二つの関係を同一平面上にプロットすることにより、あるリンパ管を流れるリンパ液の圧と流量とを同時に決定した。この結果、リンパ液は陰圧で流れうること、更に、リンパ流速の増加は必ずしも内圧の上昇をもたらさないことが明かとなった。 次に、病態モデルとして、ウサギ足背にFITCで蛍光ラベルしたVX-2ウサギ胃癌細胞を注入し、ここをドレナージするリンパ管中にどの程度癌細胞が出現してくるかを検討した。リンパ液中に出現した癌細胞の全有核細胞に占める割合はフローサイトメトリー法(FACS Calibur)を用いて計測された。急性期においてリンパ管内に出現した癌細胞の割合は1%以下と僅かであった。 今後は更に、物理的・化学的な刺激に応じたリンパ動態の変化と癌リンパ行性転移との関連を追及して行く予定である。また、慢性モデルを用いて経時的なリンパ行性転移の研究も行って行きたい。
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