興奮性細胞膜に存在する内向き整流カリウムチャネルは、平衡電位よりも負電位側において細胞外から内へカリウムイオンを通すが、正電位側では内から外へ通しにくい性質をもつ。この内向き整流性の電流電圧関係の機序の一つとして、近年細胞内に普遍的に存在するポリアミンと呼ばれる有機物質によるチャネル孔の閉塞(ブロック)が明らかとなった。ポリアミンは生理的なpHでは多価の陽イオンとして存在し、細胞内で複雑な代謝経路を経て2価のプトレッシンから3価のスペルミヂン、4価のスペルミンへと順に作られる。そこで本研究ではこれらのポリアミン、およびやはり生理的な内向き整流カリウムチャネルのブロッカーであることが知られているマグネシウムイオン(Mg)について各々の内向き整流性への関与、役割を明らかにすることを目的として研究を行った。その結果、約1μMの細胞内スペルミンによるチャネルブロックが単独で強い内向き整流性を引き起こすことが示された。その場合カリウムの平衡電位(約-83mV)付近から正電位側では外向き電流はわずかにしか流れなかった。これと同時に細胞内に約1mMのMg(生理的濃度)が存在する状態で細胞を脱分極させると、より正電位側でMgはスペルミンに代わってチャネルをブロックすることが示された。このMgによるブロックは再分極(脱分極後に再び膜を分極)によって瞬時に解放されるため平衡電位付近において外向き電流を増加させた。2価のアミンであるプトレッシンもMgと同様の働きをした。この事は興奮性細胞、特に心筋細胞の活動電位において最終的な再分極を促す重要な機構であることが示唆された。
|