雌ラットの生殖行動はエストロゲン依存性に調節されており、その一要素に誘惑行動がある。視索前野(POA)はエストロゲン受容体陽性細胞を多数含み、この部位のニューロンを選択的に脱落させると誘惑行動が消失する。また、誘惑行動は歩行量と密接に関係しており発情期に雌ラットの歩行量が増加するが、エストロゲンがPOAから歩行量を調節する中脳歩行領域へ投射するニューロンの興奮性を調節していることが麻酔下での記録実験から明らかになっている。これらの結果からPOAがエストロゲン存在下で誘惑行動に促進的な役割を持つことが示唆されている。本研究では、8本の白金-イリジウム線を束ねて作成した金属ワイヤ電極を雌ラットのPOAに慢性的に植込み、単一ニューロンの発火活動を記録し、生殖行動と放電頻度の変化を関連づける。さらにPOA内の記録部位の同定を試みることにより、雌ラットの誘惑行動がどのような神経回路による調節を受けているかについて検討することを目的とする。今年度の研究において、191匹のラットのうち27匹からニューロンの単一発火活動が記録され、7個が生殖行動に同期して放電頻度が変化した。これらのうちにはintromissionの終了よりmount前よりも発火頻度が低下するものが4個認められた。これらのニューロンにおいては、intromissionを伴わないmountでは発火頻度の低下が見られなかった。他にもintromissionの間放電頻度が増すニューロンが2個、雄ラットのmountにより放電頻度が増すニューロンが1個それぞれ記録された。このような発火活動はPOAの背外側部より記録された。これらの結果からPOAの背外側部には生殖行動の動機づけに関与するニューロンが存在することが示唆された。
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