高温環境下では常温環境下に比べて起立性の血圧低下が起こりやすい。高体温での起立性低血圧の発生原因に心拍の血圧反射感受性の低下が関与するか否かを検証するために、仰臥位安静状態で正常体温時と高体温時の心拍の圧反射特性を比較検討した。被験者は健康な成人男性9名(平均年齢24歳、平均体重65kg、平均身長171cm)であった。被験者はまず正常体温状態で頚動脈圧反射テストを行い、続いて温水環流ス-ツを用いて食道温を38℃に上昇させて高体温状態で同一のテストを行った。頚動脈洞刺激にはネックチャンバーを用いて、止息状態で頚部に+40から-65mmHgの圧をR波をトリガーにして一拍毎に段階的に負荷した。これを8回前後繰り返し、それぞれの圧負荷に対する心拍応答の平均値を求めた。心拍の頚動脈圧反射感受性は頚動脈圧(平均血圧-neck pressure)と心拍数の反応曲線の最大勾配から評価した。血圧変化に対する心拍の緩衝能力をreference point[(0mmHgのneck pressureでの心拍数-最小心拍数)/心拍数の変化範囲×100%]から評価した。心拍数は加温によって57.7±2.4拍/分から88.7±4.1拍/分へ有意に増加したが、平均血圧には有意な変化は認められなかった(正常体温時:78±2mmHg、高体温時:79±2mmHg)。頚動脈圧に対する心拍数の反応曲線の最大勾配は加温によって変化しなかった(正常体温時:-0.15±0.02拍/分/mmHg、高体温時:-0.15±0.02拍/分/mmHg)。高体温時のreference pointは正常体温時のそれより有意に大きかった。これらの結果より、急性高体温暴露によって心拍の頚動脈圧反射の感受性は変化しないが、血圧の低下刺激に対する心拍数の増加反応は現象することが示唆された。
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