牛脂あるいは紅花油を添加した高脂肪食をラットに与えると、紅花油食に比べて牛脂食で褐色脂肪組織(BAT)の交感神経活性が低下し、BATの食餌誘発性体熱産生(DIT)が低下すること、その結果、牛脂食で体脂肪蓄積が増大することが報告されている。本報告では、牛脂食のDIT低下作用に、特異的熱産生蛋白質であるBAT脱共役蛋白(UCP)量の低下が関与しているか否かを検討した。 一方、牛脂食で交感神経活性が低下する原因として、視床下部及び大脳皮質のノルエピネフリン代謝回転速度(NEt)およびβ-アドレナリンレセプター(β-AR)結合能の低下が関与している可能性が報告されているが、詳細については不明な点が多い。本研究では、両群ラットの視床下部及び大脳皮質におけるβ-AR量および分布を明らかにするため、免疫組織化学的手法を用いて検討した。さらに、ノルエピネフリン合成の律速酵素であるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)量が、牛脂食で低下しているか否かについても検討した。その結果、以下の知見を得た。 1.BATのUCP量は、紅花油食群に比べて牛脂食群で有意に小さかった(p<0.05)。 2.免疫組織化学的手法を用いて調べた、視床下部および大脳皮質におけるβ-ARの染色強度および分布には、両群間で差は見られなかった。 3.視床下部のTH量は、紅花油食群に比べて牛脂食群で有意に小さかった(p<0.05)。大脳皮質のTH量は、紅花油食群に比べて牛脂食群で低い傾向にあった。 以上のことから、牛脂食によるDIT低下作用には、BATのUCP量の低下が関与している可能性が示唆された。さらに、牛脂食で視床下部および大脳皮質のNEtが低下する原因として、TH量の低下が関与している可能性が示唆された。免疫組織化学的手法を用いて調べたβ-ARの分布については、明確な結果が得られなかった。
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